貴志祐介さんの『エンタテインメントの作り方』を読みました。
売れる小説ってなんだろう
いきなりですけど現代小説には2種類あって、ざっくり分けると「芥川賞系」と「直木賞系」になると思うんです。
・芥川賞系:芸術的・思想系・小難しい
・直木賞系:娯楽的・物語系・読みやすい
「芥川賞系」はいわゆる「純文学」の系譜を引いているもので、わかりやすく言うと『人間失格』みたいな感じ?(太宰は芥川賞とれてないけど……)ストーリー重視というよりは、より人間の内面に迫るというか、思想を重視しているもの。ゆえに、話としては小難しいものが多い印象です。
「直木賞系」はいわゆる「大衆小説」で「エンタメ」です。エンタメ。つまり娯楽。ひとびとを楽しませるもの。こちらは一見してわかるストーリーの面白さとか、アイデアが重視される傾向にあると思います。少し古いかもですが『リアル鬼ごっこ』なんかまさにそうですね。ちなみにこの系譜の末裔が「ライトノベル」です。
(あくまでざっくり言うと、ですよ。)
で、貴志さんはわたしの中では後者、つまり直木賞的でエンタメ的な作家です。特に(貴志さんの主戦場である)「ホラー」と「ミステリ」というジャンルは、まさにエンタメ。「面白いストーリー」があってナンボの世界だと思います。
本著には、そんな「面白いストーリー」をいかにして作るか、という工夫の数々が記されています。えっ、そんなことまで教えてくれちゃうの?!というくらい、小説家・貴志祐介の執筆ノウハウが余すことなく公開されている一冊です。アイデアの出し方からプロットの作り方、キャラクターの名付け方法、舞台の決め方まで。ありがたい。ありがたすぎる。小説家になりたい方はもちろん、漫画や演劇でもなんでも、まさに「エンタテインメント」を作る方であれば、学ぶところは多いはず(だからこそ『小説の書き方』ではなく『エンタテインメントの作り方』という題なのであると思う)。
小説家って、なんとなく書きたいものを好きなように書いている(そういう才能がある)ようなイメージでしたが、「売れる作家」であればあるほど、やっぱり「読者」を意識しているんだ、というのがいちばんの感想です。小説もひとつの「商品」である以上、常に「お客さん」を想定してつくられているんですね。それは他の商売と変わらないのかも。
ちなみにわたしは『青の炎』の面白さが衝撃的で、貴志祐介さんに興味を持っていたので読みました。指南書のような体裁ですが、ふつうに貴志さんのエッセイとしても楽しめます。なにより文章が読みやすい。数時間でぺろっと一気読みしちゃいましたし、所々クスクス笑いました。笑 『悪の教典』や『新世界より』など「貴志作品の誕生秘話」もたっぷり書いてあるので、貴志ファンにもたまらない一冊となっております。